「交趾焼(こうちやき)」の由来は、朱印状貿易が盛んであった、16世紀後半にさかのぼります。

南蛮船により、世界各地から珍しい品々が長崎の「出島(でじま)」を通じて鎖国中の日本に入ってきました。

この色彩鮮やかな焼物は、「珍しい物」の意から「交趾香合」と呼ばれました。

近年の研究では、中国の福建省にその生産を証する窯跡が発掘されています。


日本では、1683年の茶会記に「交趾形物香合」が登場し、以降お茶人の間で広く珍重されております。

 

父である中村翠嵐は、この交趾絵の具に改良に改良を重ねることで、それまで存在しなかった発色と質感の高さを実現させました。

この、他では出せない独自の色合いから、父の作品を、交趾の中でも特に「翠嵐交趾(すいらんごうち)」と呼んで下さる方もいらっしゃいます。

父は喜寿を迎えましたが、現在も尚、「まだまだやりたい事、試したい事が山ほどある」と、挑戦と実現を繰り返しており、むしろ勢いは歳を追うほどに加速しているようにすら感じます。


私はこの交趾焼の素晴らしさを父と共に理解して参りましたが、父には父の茶陶の世界があり、それを評価、時にお叱りを下さるお茶人の皆様あっての翠嵐でもあります。

私共「Ritsuko Nakamura」は、この豊かな色彩を持つ素晴らしい「交趾焼」を、茶陶の世界だけではなく、日常に於ける最も身近な「芸術作品」として供することで、皆様の日々の生活に彩りと豊かさを添えるお手伝いが出来れば嬉しく存じます。

 

私共のタイルについて―

私共のタイルは、工場で型抜きされた素地に筆で色付けしただけの「製品」ではありません。「全くのゼロの状態」、つまり何も無い国産素地に、一枚一枚、下描きする事から始まります。どれだけ数があろうと、一枚一枚。

更にこのモザイクタイルに至っては、表面が完全な平らではありません。中心部分に向かって、滑らかな膨らみを持っております。この滑らかな膨らみが、真っ平らなタイルにはない、絶妙な柔らかさと温かみを表現します。

しかし、これは職人にとっては印象が逆で、はっきり言うと「描きにくい」ということです。ノートに絵を描く時を想像して頂きますと、ノートが平らではなく、中央部分に向かってなだらかに膨らんでいるという事です。この膨らみを計算しながら作業し、全ての工程は完全な分業で行われます。

 

 

 

これは、同じ絵柄であっても、「ひとつとして同じ物が存在しない」事を意味します。

この後、「イッチン技法」と呼ばれる、特殊な絞り道具を使って模様を描いて参ります。これによって、タイルの模様はアナログな凹凸を持つ立体感を得ます。

ケーキの生クリームを想像される方が多いのですが、実際に絞り出すのは「土」ですので、長年の経験がなければ、スムーズにイッチンで柄を描くのは容易ではなく、この工程の後、ようやく最初の焼き締めです。

その後、イッチンにより形成された凹凸の絵柄に、絵の具で色を描き入れて参ります。この絵の具の量も重要で、多すぎると焼成した際に外に流れてしまったり、絵の具が膨らんで泡を吹いてしまったりします。それでは少なくすれば、と思うと、今度は想定していた色にならず、ぼんやり薄いものになってしまいます。

 

 

こうなると、再度色を入れて焼成する事になりますが、この段階でも適正な絵付けが出来ないと結局求めた色合いにならず、再修正、再焼成。焼成は温度管理が非常に難しく、単純にそこだけでも気を使いますが、複合的な要素が絡んでくるため、理論と経験が要求されます。

それでも納得のいかない仕上がりになることもしばしばあり、この場合は当然廃棄、最初からやり直しとなります。

「何十年も経験を積んでいる職人でさえ、思った通りにならない場合がままある。しかし上手くいった時には素晴らしい色合いの作品になる。」

まさにこれこそが、交趾焼の魅力だと思うのです。タイル自体は小さなものかも知れませんが、その製作工程は茶陶器のそれと同じです。

制作は私共「翠嵐工房」内で完結するため、お客様のご要望に応じた細かい仕様のご変更(色、絵柄、タイルの大きさ等)に柔軟に対応が可能なのも、大きな特徴のひとつです。

 

 

 

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